近年、製造業全体で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が急速に進んでいます。
その動きはもちろん 工作機械業界・金属加工業界でも同じです。
「人手不足」「技能継承」「設備稼働率の低迷」など、現場が抱える課題の多くは、DXによって“仕組み”から改善することができ、既に多くの中小製造業で成果が出始めています。
本記事では、工作機械業界にも活かせる国内のDX成功事例を分かりやすくまとめました。
DXが求められる背景|工作機械業界が抱える共通課題
工作機械・金属加工の現場では、以下のような課題が深刻化しています。
- 職人頼りの作業が多く、技能継承が進まない
- 設備の稼働状況が“見える化”されておらず、トラブル対応が後手になる
- 人手不足で生産能力を維持できない
- 設備投資が難しく、既存機の稼働最適化が必要
- 品質管理が属人化しており、ばらつきが生まれやすい
こうした構造的な課題に対して、近年は 「デジタル技術で現場の状態を可視化し、ノウハウを共有化する」 というアプローチが効果を上げています。
工作機械業界に活かせるDX事例
以下は、ものづくり白書や経産省資料でも紹介された現実的な事例です。
いずれも中小企業ながら、DXによって大きな成果を上げています。
山本工作所(福岡県)|設備の見える化で生産性向上
鋼製ドラム缶を製造する山本工作所では、受注 → 生産 → 出荷 → 売上 までを一元管理する「生産性管理システム」を導入しました。
加えて、以下の“設備の見える化” が進んだことで、設備トラブルの減少・品質向上・生産性アップにつながりました。
- 設備の稼働状況をリアルタイムで監視
- トラブル発生時の原因解析を映像で再確認
- 設備ごとの稼働効率をデータ化
さらに、DX推進と合わせて 社内研修や資格取得支援 を実施し、「人材育成 × デジタル化」を両輪で進めている点も特徴です。
旭ウエルテック(石川県)|職人技をデジタル化して技能継承を実現
工作機械部品の溶接や製缶加工を行う旭ウエルテックでは、長年のベテラン職人の“経験と勘”に頼る仕事が多く、技能継承が課題でした。
そこで同社は、溶接・加工のノウハウをデータ化した「トラの巻」システムを自社開発しました。
- ベテランの作業手順
- 注意点や失敗しやすいポイント
- 条件設定のコツ
- 写真・動画の記録
これらを体系化し、若手でも同レベルの品質を再現できるようにしました。
結果として、属人化解消・教育時間の短縮・品質の平準化が進み、人材育成と生産安定の両方に効果が出ています。
工作機械業界のDXが生み出す価値
これらの事例は、工作機械業界にもそのまま応用できます。
① 技能の属人化解消
ベテランだけに頼らない“再現性のある現場”を構築。
② 設備稼働の安定化
IoT・センサーで稼働状況を可視化し、故障リスクを低減。
③ 生産計画の最適化
受注~出荷のデータ一元管理で、計画の精度が向上。
④ 人材育成スピードの大幅UP
マニュアル化や動画化で教育コストを削減。
⑤ 若手採用・定着に有利
デジタル化された現場は、“働きやすい職場”として評価されやすい。
工作機械業界がDXを始めるためのチェックポイント
すぐに取り組めるステップとしては、以下の流れが最も効果的です。
- 現場の課題を棚卸しする(属人化ポイントを発見)
- 簡易的な「データの見える化」からスタート
例)設備稼働モニタリング、作業動画の蓄積 - 作業手順とノウハウを記録・体系化
- 担当者を決めて小さくDX推進チームを作る
- 人材育成・資格取得支援とセットで進める
特に中小企業では、無理に大規模投資はせず、小さく始めるDXが成功しやすい です。
まとめ|DXは“設備更新”ではなく“仕組みづくり”
今回紹介した事例に共通するのは、DXが「システムを導入すること」ではなく、“データとノウハウを共有できる仕組みづくり”であるという点です。
工作機械の現場には、属人化・技能継承・設備管理など、DXと相性のよい課題が多くあります。DXの取り組みは、人材不足の時代に企業が成長するための大きな武器として確実に価値を持つようになっています。


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